町田法 外反母趾手術
Machida's Axial rotational proximal chevron osteotomy with inter metatarsal fixation for hallux valgus.
概要
町田法外反母趾手術は第1中足骨近位のシェブロン骨切り術で、母趾の長軸の回旋を行い第1-2中足骨間で固定する術式であると定義する。
適応
著者の外反母趾手術は頻度の高い順に以下を行っている。
1.町田法 (Machida osteotomy)
2.遠位シェブロン骨切り術 (Distal chevron osteotomy)
3.カイレクトミー (cheilectomy)
4.エイキン骨切り術 ( Akin osteotomy )
5.外骨腫切除術 ( exostectomy )
町田法は多くはカイレクトミー、稀にエイキン骨切り術を組み合わせる。遠位シェブロン骨切り術は外反母趾角 30度以下に用いる。主に骨棘、内側骨隆起の尖っている例に用いる。カイレクトミーは母趾IP関節の可動域が制限されている例に用いる。エイキン骨切り術はIP外反母趾、母趾基節骨が変形している例に用いる。
町田法の適応は立位時に母趾が床面に対して回旋している外反母趾である。 外反母趾角は30度以上の中等度から高度の例である。
町田法は立位時に母趾が床面に対して回旋している外反母趾に対して強力な回旋矯正を行う事ができる。
重度の外反母趾では町田法にカイレクトミー (cheilectomy) を追加する。
IP単独の外反母趾はエイキン骨切り術( Akin osteotomy ) の適応であり町田法の適応では無い。
エイキン骨切り術は母趾の基節骨のクロージング・ウェッジ・オステオトミー (closing wedge osteotomy ) である。
町田法、Mann法などの第1中足骨近位骨切り術は、母趾基節骨が変形しているIP外反母趾では矯正が不充分であり、町田法とAkin法を同時に行う。
準備
外反母趾、強剛母趾の手術にマイクロ・サジタール・ソーは必須で、骨ノミでは不可能である。
4.0mm キャニュレーテッド・スクリュー スクリューの長さは36mmから40mmを使う事が多く、38mmが最も多い。
ディプスゲージ 本来の使い方だけでなく、第2中足骨にガイド・ピンが入っているのを確認するのにも用いる。
30cm 物差し : 手術中にKワイヤの長さを計ります。
太さ2mm の K ワイヤを1本、太さ1.6mmのガイド・ピン(150mm) または Kワイヤ(300mm)を2本使用する。
スクリュー抜去時には1.6mm を1本使用する。
術中X線撮影を行う。著者は外反母趾手術ではX線イメージは使用しない。スクリュー抜去の時にはX線イメージを使用する。
麻酔・駆血
町田法は足関節ブロック (ankle block)で行う。 1% E入りキシロカインを生理食塩水にて倍量に薄めて、0.5%を40cc使用する。術中にダイアゼパム(セルシン)を半量、ゆっくりと静脈注射する。
駆血は足関節に幅5cmくらいのエスマルヒを用いる。200例以上の例で足関節の痛みを感じた例は2例で、重く感じる程度であった。駆血時間は正常な血流で1時間から1時間15分までと考えており、超える場合には15分間の血流再開を行っているが、通常は再度駆血しなくても出血はほとんど無いので2度目のは駆血は必要無い。
手術手技1. 近位シェブロン骨切り術
皮切部のマーキング
爪の向きを参考にして、立位時に側面に位置するように手術用ピオクタニン・ペンでデザインする。
第1中足骨の近位部に直線の皮切を行い、展開する。 浅い静脈が見える事があるが、なるべく切らずに筋鉤 (retractor)で引いてよける。
細いエレバトリウム、ピンセットなどで、第1中足骨の近位端を確認する。
第1中足骨の近位端から15-20mm の位置に、太さ2mm の K wire を反対側の骨皮質を貫通するまで刺して抜き、穴を開ける。 この穴が V字型骨切りの頂点になる。
穴を開け、V字型骨切りを行う前に骨膜は剥がさない。この部の骨膜は薄いので骨片を動かす時に剥がす必要は無く、かえって骨切り部が不安定になり、骨癒合が遅くなるので剥がさない方が良いと考えている。
頂点の穴から サジタール・ソーを用いて V字型骨切りを行う。
V字型骨切り部の近位に太さ2mmのK wire を刺入して、第2中足骨に一時的に固定する。 これを プロキシマル・ワイヤと呼ぶ。
このプロキシマル・ワイヤはスクリュー固定後に抜くので、1cm 位、骨から出して切断する。これにより、後の操作で近位骨片が動くのを予防する。
母趾MP関節の内側を直線の皮切を加える。第1中足骨の背側、足背には指神経が浅い層、皮膚の近くに走っているので、避ける。通常は指神経が見える事は無い。少しずつ慎重に切開する。
関節包(joint capsule) も直線に切り、骨膜を片刃ノミで剥がし、第1中足骨の骨頭部を露出する。 外反母趾では、メディアル・エミネンス(medial eminence 内側骨隆起)に尖った骨棘 ( osteophyte ) が見られる。
メディアル・エミネンス(medial eminence 内側骨隆起)をサジタール・ソーで取り除く。切除した骨片は骨切り部に骨移植する事も出来るので一応保存するが骨移植は必ずしも行わない。
近位骨片の固定に用いた 2mm K wire の残りを用いて、 母趾の回旋を行うためのワイヤ、ジョイ・スティック(joy stick)を刺入する。骨の軟らかい切除部を避けて、骨皮質の硬い部分から骨頭を貫くまで入れる。ワイヤが長過ぎての先端が第2中足骨に接触しないように注意する。母趾の爪の面を矯正するので、ジョイ・スティックは爪と平行に挿入し、第1中足骨の回旋を矯正した時に足底面に平行になる。
ワイヤは骨から約10cm 出して切断する。2mm K ワイヤの残りの部分は次に使用する。
chevron、つまり "V"字型に骨切りした遠位骨片を細いエレバトリウムなどで持ち上げ、2mm の K wire を髄腔内に手で挿入する。 このアキシアル・ワイヤ(axial wire) で骨の向きを見る。
このアキシアル・ワイヤはキャニュレーテッド・スクリューを入れるためのガイド・ワイヤを入れる時、スクリューを締める時に入れておく。
ジョイ・スティックを軽く操作して、母趾の爪が足背に向くように中足骨の遠位骨片を回旋する。アキシアル・ワイヤにより、骨切り部が沈み込むのを予防する。
左手で母趾MTP関節を軽く押し、同時に少し足底方向に保持する。そして、アキシアル・ワイヤは足背から見て第2中足骨と平行、足の側面から見てやや足底に向けるように保持する。
この操作により、第1、第2中足骨角 (M1M2 angle) は充分に矯正されている事が多い。
第2中足骨から第1中足骨に1.6mm K ワイヤ またはガイド・ピンを2本、ドリルで刺入する。この操作で出来上がりの角度が決まるので慎重に行う。
再度、アキシアル・ワイヤを良く見て中足骨の方向を決める。
ガイド・ピンを入れて、先端が骨髄内に達した時にアキシアル・ワイヤに当たった時に抜去する。それまでは出来るだけ抜かない。アキシアル・ワイヤが無いと骨片は不安定で良い位置に来ない。
第2中足骨はガイド・ピンの先が滑り易く先端が骨皮質を貫くのを確認しながら刺入する。ガイド・ピンの先端はできれば皮切内に入るように皮膚を牽引する。
このCTはスクリュー抜去後で、中足骨とスクリューの位置を示している。
デプス・ゲージを刺して、ガイド・ピンが第2中足骨に確実に入っている事を確認する。入っていない時にはガイド・ピンを入れ直す。
ここで術中、X線写真を撮る。
見えているワイヤは上から
ジョイステック : 2mm K ワイヤ
ガイド・ピン 2本 : 1.6mm K ワイヤ
プロキシマル・ワイヤ : 2mm K ワイヤ
スクリュー入れた後に抜く。
術前、術中を比べてみる。ここでは、第1中足骨のアライメント、ガイド・ピンの位置を確認する。肉眼的に外反母趾角の矯正が不充分であれば、ディスタル・ソフトティッシュー・プロシージャ、カイレクトミー (cheilectomy 関節唇切除術) を追加する。また、IP外反母趾が残っていれば、エイキン骨切り術 (基節骨の骨切り術) を追加する。
スクリューの長さを予測する。A cm は物差しで測る。
B cm はガイド・ピンを用いている場合には、デプスゲージで測る。30cm のKワイヤを用いている場合には、例えば15cmのデプスゲージであればデプスゲージから出た部分を測り、計算する。
スクリュー・ヘッドの長さがあるので、計測した長さ +2mm が適切である。
スクリューの長さは36mmから40mmを使う事が多く、38mmが最も多い。
計測した長さをメモして計算する。
アキシアル・ワイヤを少し入れて、遠位骨片が外側に移動するのを防ぐ。<---重要
まず遠位のスクリューを入れる。すると遠位骨片の位置が大きく変わるので、スクリューを完全に締める手前で、近位のスクリューの長さを測る。つぎに近位のスクリューを挿入する。
スクリューを挿入する時のトライバーを回す抵抗があり、骨内に入っている事を確認する。
スクリューの先端はできるだけ第2中足骨の骨皮質を貫いて入れる。特に高度肥満、高度の骨粗鬆症、RAの例ではネジが抜ける事があるので注意を要する。
術中のX線写真で第1中足骨のアライメントを確認する。アライメントが不整な場合には2本のスクリューの締め具合を調整すると変える事ができる。
アライメントを調整する時には、アキシアル・ワイヤ、プロキシマル・ワイヤを入れる。このワイヤを無いと調整は困難である。<---重要
アライメントが良くなくても、足の外観が良ければリモデルリング (骨改変)が強力に働くので問題無い。
2本のスクリュー締め具合を調整した後の写真である。
骨切り部を指で触ってみて尖っていれば、遠位骨片の3角の部分をソーで切り滑らかにする。
中足骨遠位のメディアル・エミネンス(medial eminence 内側骨隆起)を切り取った骨片を骨移植する事もできる。ただし、移植骨が動いて皮下に当たる事があるので、深く挟み込むように移植する。第1中足骨近位は骨癒合が良いので必ずしも行う必要は無い。むしろ仮骨形成が過剰で一時的に骨隆起を生じる事がある。
過剰な仮骨が痛みの原因になる場合にはスクリュー抜去時に削る事が稀にある。
手術手技 2. ディスタル・ソフトティッシュー・プロシージャ
この段階でM1M2角は矯正されているが、外反母趾角 (hallux valgus angle) の矯正が不足している場合には、母趾MTP関節の遠位外側の軟部組織を切離する。この操作をディスタル・ソフトティッシュー・プロシージャと呼ぶ。
術前の外反母趾角が40度以上の高度な外反母趾では必要な事が多い。皮切は外反母趾角が矯正された後に、直線になるように屈曲する。
ディスタル・ソフトティッシュー・プロシージャでは神経が浅い層を走っているので、皮切は小さく、尖ったハサミで直視化に行う。
まず関節包(joint capsule)を先に切離し、必要なら母趾外転筋(abductor)も切る。関節包(joint capsule)は硬い組織なので、関節周囲の半分くらい切離する。
手術手技3. カイレクトミー (cheilectomy)
母趾MTP関節の背屈が制限されている時には、カイレクトミーを行う。切除する方向は母趾の背側、内側行う。重度の例では関節面の1/3を切除する必要がある。
手術手技4. エイキン骨切り術 (Akin osteotomy)
基節骨をサジタール・ソーで切る前に、2mmのドリルかKワイヤでドリリングしておく。骨切りは反対側の骨皮質を残す、"寸止め"で行い、矯正を加えて折る。前に開けた穴から2mmのPLLAを差し込む。
抜去が必要無いので、常にPLLAを用いている。骨切りの時に片側の骨皮質を残せば偽関節の危険も無く、骨癒合は心配無い。
エイキン骨切り術ではKワイヤで止める方法も良いが、抜去が必要なので行っていない。
エイキン骨切り術ではステープルで止める方法も良い。しかし、骨癒合した後でもステープルが動いて痛みが出る事があるので、抜去するか、「金属が動くなど、痛みが出たら抜去します。」 と患者に説明しておく。
外固定
膝下からギプス・シーネ固定を行う。シーネは2週間つける。
後療法
術直後は枕の上に患肢挙上し、術後2日間はトイレのみ歩行可能とする。術後2週間で抜糸、術後4週間までは踵歩行、その後は体重負荷とする。
スクリュー抜去
術後4ヵ月で足関節ブロック、透視下でスクリュー抜去を行う。透視下にスクリューを真上から見て、皮切の前に1.6mmガイド・ピンを手でスクリューに刺す。皮膚にスクリューの頭が通るようにガイド・ピンの周囲に5mmの皮切を加える。ガイド・ピンに中空ドライバーを刺して抜去する。
スクリュー抜去の時に透視下でスクリューを横から見て行うと難しくなる。
稀に過剰な仮骨のためにスクリュー・ヘッドが埋まっていてもガイド・ピンには容易に通る。ところが、ドライバーがスクリュー・ヘッドに入らないので骨ノミで仮骨を取り除く必要がある。
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